エイプリルフールSS ’10(了)

2日後の生徒会室。
そこには俺と千歳の疲れきった表情があった。



結局、4月1日の間に何かがあったわけでもなく、かといって昨日も連絡すら来ない。


悩むだけ悩み抜いて俺たちは疲れていた。


「……では、行事についての確認はこれで終了ですね。生徒会長、ほかに何かありますか」
「いいえ……何もないわ。会議はこれで終了ね。お茶でも入れましょう」

「わぴこ、チョコレート食べたいなっ」
「お前何で棚の中にチョコが入ってるの知ってんだよ」
「え」
「……覗いたな?」

「はいはい、わかったから移動しましょ!」



いつも通り、なんだ。
こ・れ・で・も・かってくらい、いつも通りなんだ。






「お待たせ」
千歳がいれた紅茶をすすりながら、俺は迷っていた。
エイプリルフールが過ぎてなお、こんなに悶々とするくらいなら……

いっそ聞いてしまったほうがマシなのではなかろうか。


そう思い始めていた時だった。




「そういえば、あれから1年になるんだね……なつかしいよ」
「へ?」

秀一がにっこりと微笑む。

「ほら、僕が葵たちの交際を知らされたじゃないか」


去年の、エイプリルフール……。



「そ、そーだな……あの時の秀は結構怖かったぞ?」
「だろうね、仕返しする気満々だったし」

秀一は小さく笑った。


「で、葵。千歳さん。……エイプリルフールは楽しんで貰えましたか?」















……………………………………思考が再起動するまでに随分と時間がかかった。
それは千歳も同じようで、紅茶を手にした格好のまま固まっている。





エイプリルフールは楽しんで貰えましたか、だって?



「とても愉快だったよ、ねえわぴこ」
「うん」

にま。

2人が口の端を上げて笑う。

「今か今かと警戒している2人を眺めているのは楽しかったですよ?」
「ふたりとも目が泳いでたもんねー!」



ちょっと待て?
どういう事だ?
誰か俺に説明してくれ?






「わからないかな? 僕は葵にちゃんと嘘をついたよ?」
「わぴこはちーちゃんを騙したよ?」




「……はぁっ!?」
「……………………あああああっ!!!」

千歳がようやく動き出すと同時に大声で叫んだ。



「わ、わぴこ……!!! 秀ちゃんが嘘つくよ、っていうのがあんたの嘘だったのねぇぇぇ!?」


……!!!


つ、つま……り……


俺が秀一に視線を向けると。
今まで見たこともないくらい、なんというか……黒い?
ああ、黒い笑顔で。

秀一は俺を見ていた。


「ふふ、これで復讐は完了したよ。去年の借り、確かに返したからね……あ・お・い?」



や、やられた……完全に術中にハマってたんだ俺たち……





わぴこが「今年は自分も騙したい」と言ってたから気をつけろ。

それこそが秀一の大嘘。



俺は裏読みしすぎて、結局警戒しっぱなしで今日まで………………






ち、ちくしょー!!

「お前らグルだったんだなー!」
「去年は君と千歳さんがグルだったんだから対等だろ?」
「くっそー! 覚えてろよっ!! 来年は絶対騙してやるからな!!!」



隣で力尽きた千歳のことは見なかったことにして
俺は絶叫したのだった……。