Wake upシリーズのおまけ。(葵×千歳)

そう言えば、我に返って考えてみると今は夜の10時だよな。

「千歳、今更だけどよ」
「……ん?」


熱烈な愛の告白の後、千歳に案内されて俺は藤ノ宮家のリビングでコーヒーを飲んでいた。
クッキーを皿にあけて運んで来た千歳が不思議そうな顔で俺を見る。

「いや、この時間に俺がここに居てお前が平然としてるって事は、俺がここに居る事は周知の事実ってことだよな?」

差し出された皿からクッキーを一つつまみ、口に放り込みながら俺が言うと千歳はハッとして動きを止めた。

「そうだわ!! 葵が大丈夫だったこと、わぴこ達に知らせなきゃ!」



……ははあ。
わぴこ達が知ってるって事は……


「北田くんにも電話しなくちゃ」
「あーいい、俺がかける。迷惑かけたの俺だしな」
慌てて電話に駆け寄ろうとする千歳を制して、俺は受話器を上げる。
「でも私が追い掛けたせいなんだし……」



しおらしい千歳がこんなに可愛かったということに、今まで気付こうとしていなかった俺自身を恨むぜ……


「いいって、気にすんな。楽しかったからなーお前とああやって騒いでんの。俺も調子に乗っちまったんだし。お前、外で寝てたんだから体冷えてんだろ、早いとこコーヒー飲んで温まれよ」

惜し気なく愛を込めた微笑みを向けてそう言えば、千歳はびっくりした後に破顔する。

「ありがと、葵」

うっわ……
千歳に礼言われたの、初めてじゃねえかな。
ちょっと感動だな……

「ま、何なら俺が人肌で暖めてやってもいいけど?」
「は……?」

言っておいて返事は聞かずに、俺は秀一に電話をかけはじめる。

呼び出し音が鳴り出したころ、ようやく意味がわかった千歳が真っ赤になって拳を振り下ろして来たけど、照れ隠しのようで、全然力が入っていなかった。



「はい、北田です」
「おー秀ボーか? 葵だけど……ってコラ千歳、やめろってのに」
「もうっ! 葵のばかっ!!」
「冗談だっつうのに!」

笑いながらふざける俺達の様子が向こうに伝わったのか秀一が吹き出した。

「良かった。何だか色々と上手く行ったみたいだね」
「おう、まぁな。あれだ、災い転じてナントカーっての? それはそうと秀、お前には迷惑かけちまったなぁ。上手くやってくれて助かったよ」
「まあ、これくらいはね。わぴこも心配していたから、早めに電話しておいた方がいいよ」



何てことないやりとりをしながら、暴れる千歳を抱きしめて俺は笑う。
「ああ、そうする。千歳にかわるか?」
「そうだね。少しだけ」

ホイよと受話器を渡し、俺は千歳の頬にわざと音を立ててキスして離れる。

もちろん、秀一に聞こえるように、だ。
少しくらい、ノロケさせてもらってもいいだろ?


再びコーヒーを飲みながら千歳に目を向けると、何とも幸せそうな表情で会話をしている。


後で聞いたら、「これからは切ない表情をしなくて済みますね」と言われたらしい。

「葵が気を失ってる時、私かなり酷い顔をしてたらしいわ。嫌ねえ、そんなに変な顔だったのかしら……」


――― う~ん。鈍さは相変わらずか。

この分じゃ「切ない」の意味もわかってねえなー。

「何よー、何か言いたそうじゃないの」
「んー? ま、これからは俺が悲しい顔なんてさせねえってことだよ」
「っ……そ、そうね。私も……葵に悲しい顔なんてさせないわ」



――― 可愛い女め。

「……これからは、ずっと一緒にいような、千歳」
「うん……その……大好きよ、葵」

照れながら言う千歳に微笑んでみせながら、俺はとある決意を固めていた。



これからは本気で行ってやる。
面倒だからサボってた勉強も、こいつと同じ高校に行く為なら軽いもんだ。


能ある鷹は爪を隠すってな。



覚悟してろよ、秀、千歳。




(了)





あとがき

まるっきり蛇足ですw
ラブラブしてる二人にあきれる秀一やわぴこ、とゆーのも好きなんですwww


またラブラブな二人も書きたいな~。