キスをしよう! 61

――― 感動のクランクアップを迎え、一応の終わりが見えた撮影だったのだが。





「考えてみたら、まだ舞台が残ってるのよねぇ」

『彼女』とまだ別れずにすむ安堵感と、妙な空虚感。
それでも、映画の中の『彼女』とはもう会えないのだ。

同じ役柄とは言え、やはり微妙に違うもの。


「舞台の方は今からが大変だぜ? ビシバシやるって部長が言ってたしな」

うーん、つまり講義のあとは立ち稽古が毎日続くのね。


映画と違って、舞台ではアクションをやや大げさにする必要がある。
今までとは演じ方も変えて行かなければ。



「それはまぁ置いといてだ。ともかく、映研の方はひと段落ついたんだ! 飲もうぜっ!!」






 土曜日の繁華街、安くて美味いと評判の居酒屋に私達は来ていた。
映研の打ち上げは昨夜だったのだけど、やはり二人だけで打ち上げをしたいと葵が言うので、珍しく外食である。



「もう9月が来るんだな……」

乾杯の後、ビールを一気に飲み干した葵がテーブルに頬杖をつき、ポツリと呟いた。


葵にヒロインをやってくれと頼まれてから、もう半年近い。


「あっという間の半年だったわね……葵に頭を下げられたのが、ついこの間みたい」
「そーだな。色々変わってるはずの半年なのに、なんかそんな気がしねえや」
「ほんとねー。楽しいことをしてると、時間はあっという間に過ぎて行くのね」





いきなり、葵に舞台と映画のヒロイン役をやってくれと頼まれ。

キスの演技のために、「練習」をはじめて。

葵への気持ちに気付けず、悩んで。

色んな人に助けてもらいながら、答えを見つけて。

私は葵と結ばれて。

わぴこは北田くんと想いを通じて。









そして ――― 映画はあと、編集を残すのみ。

季節は桜の頃から、紅葉の頃へと歩を進めて。




ああ ―――


私たちは、確かに、自分の足でここまで歩いて来たのね。