「遅くなっちまったし、車で送るわ」
結局、台本の読み合わせの続きもしたかったので、実際に葵の部屋へ寄ることになった私。
もちろん、買い物をしてホワイトシチューも作った。
「ごめんなさいね、長居しちゃって」
「別に構わねえって。読み合わせも途中だったから不完全燃焼だったしな。ん、でも……あー、悪い。送ってく前にちょっと」
車のキーを手にしていた葵はそれを置き、寝室に入ると手に何かを持って出てきた。
「さすがにちょっとガマンしすぎてダメだ。悪ぃな」
そう言って、手に持っていた物をテーブルに置く。
それはガラスで出来たシンプルな灰皿だった。
「葵、煙草吸うのね」
「ああ……大学入ってからだな。煙たかったら言えよ」
――― う~ん。
気をつかってくれるのは、ありがたいのだけど。
これはやっぱり……言うべき、よね。
「あのね、実は」
……言うより早いかしら。
思い直して私はバッグからポーチを取り出し、小さな箱を手に取ると葵と同じように『それ』に火をつけた。
葵は少し目を見開いて、呟くように言う。
「驚いたな。千歳もかよ」
「私も大学に入ってからね。軽めのメンソールしか吸わないけど。……成人してからは風当たりも強くって……理事長としての仕事も増えたから、ストレス溜まってた事があってね。……つい」
「あ~……まぁ確かにストレスは溜まりそうだよな、あの仕事」
葵にはたまーに書類の整理を手伝ってもらったりしているので、何度か私の仕事ぶりを見ている彼は大きく頷いてくれた。
「あまり多くは吸わないんだけど、疲れた時とかに欲しくなるのよねー」
「わかるわかる、練習の後とか吸いてえよなー」
奇妙な連帯感を感じながら一服して。
行くか、という葵の言葉に立ち上がれば。
突然、葵に後ろから抱きしめられた。
どうしたの、というセリフを飲み込み、首だけで振り返ればごく近くに葵の顔。
――― 3度目のキスは、煙草の味がした。