キスをしよう! 14

「遅くなっちまったし、車で送るわ」

結局、台本の読み合わせの続きもしたかったので、実際に葵の部屋へ寄ることになった私。
もちろん、買い物をしてホワイトシチューも作った。


「ごめんなさいね、長居しちゃって」

「別に構わねえって。読み合わせも途中だったから不完全燃焼だったしな。ん、でも……あー、悪い。送ってく前にちょっと」



車のキーを手にしていた葵はそれを置き、寝室に入ると手に何かを持って出てきた。



「さすがにちょっとガマンしすぎてダメだ。悪ぃな」

そう言って、手に持っていた物をテーブルに置く。
それはガラスで出来たシンプルな灰皿だった。

「葵、煙草吸うのね」

「ああ……大学入ってからだな。煙たかったら言えよ」





――― う~ん。
気をつかってくれるのは、ありがたいのだけど。
これはやっぱり……言うべき、よね。



「あのね、実は」

……言うより早いかしら。



思い直して私はバッグからポーチを取り出し、小さな箱を手に取ると葵と同じように『それ』に火をつけた。


葵は少し目を見開いて、呟くように言う。


「驚いたな。千歳もかよ」

「私も大学に入ってからね。軽めのメンソールしか吸わないけど。……成人してからは風当たりも強くって……理事長としての仕事も増えたから、ストレス溜まってた事があってね。……つい」

「あ~……まぁ確かにストレスは溜まりそうだよな、あの仕事」



葵にはたまーに書類の整理を手伝ってもらったりしているので、何度か私の仕事ぶりを見ている彼は大きく頷いてくれた。



「あまり多くは吸わないんだけど、疲れた時とかに欲しくなるのよねー」

「わかるわかる、練習の後とか吸いてえよなー」

奇妙な連帯感を感じながら一服して。



行くか、という葵の言葉に立ち上がれば。
突然、葵に後ろから抱きしめられた。



どうしたの、というセリフを飲み込み、首だけで振り返ればごく近くに葵の顔。





――― 3度目のキスは、煙草の味がした。